時計は使わない方が傷むこともある
「大切な時計だから、使わずにしまってあります。」
時計修理の仕事をしていると、この言葉をよく耳にします。
確かに、高価な時計や思い出の詰まった時計は、できるだけ傷を付けたくないものです。
「使わなければ傷まない。」
そう考えるのは、ごく自然なことかもしれません。
しかし実は、
時計は『使わないこと』が原因で状態を悪くしてしまうことがあります。
これは意外に思われる方も多いでしょう。
時計は精密機械です。
動かしている時だけでなく、止まっている間にも少しずつ時間は流れています。
今回は、
「時計は使わない方が傷むこともある」
という、一見矛盾しているようなテーマについて、修理職人の視点から詳しくお話しします。
「使わない=新品のまま」ではない
時計を箱の中へしまっておけば、
新品同様の状態を保てると思われる方は少なくありません。
もちろん、
外側の傷は付きにくくなります。
しかし、
時計の内部では、
使っていても使っていなくても経年変化が進みます。
例えば、
ゴム製のパッキン。
これは時間とともに少しずつ硬くなります。
潤滑油も、
永遠に性能を保てるわけではありません。
つまり、
時計は「動いていないから劣化しない」というものではないのです。
クォーツ時計は電池切れの放置が一番心配
使わない時計で最も多いトラブルの一つが、
電池切れを長期間放置してしまうことです。
「どうせ使わないから。」
そのまま引き出しへしまってしまう方も多くいらっしゃいます。
しかし、
古くなった電池は液漏れを起こす可能性があります。
液漏れすると、
内部の回路や接点へ影響が及び、
本来なら電池交換だけで済んだ時計が、
修理を必要とするケースもあります。
つまり、
使わないことよりも、
止まったまま放置することが問題になることがあるのです。
湿気は静かに時計へ入り込む
時計は保管しているだけでも、
湿気の影響を受けることがあります。
例えば、
押し入れや湿度の高い部屋。
こうした場所では、
パッキンが劣化している時計ほど、
内部へ湿気が入りやすくなることがあります。
湿気が入ると、
- サビ
- 腐食
- 部品の劣化
などにつながる可能性があります。
見た目は変わらなくても、
内部では変化が始まっていることがあるのです。
長期間使わない時計ほど状態確認が大切
修理の現場では、
「10年間しまったままでした。」
という時計が持ち込まれることがあります。
外観はとてもきれいです。
しかし、
裏ブタを開けてみると、
- 電池液漏れ
- パッキン劣化
- 湿気の影響
が見つかることもあります。
外からは分からないため、
持ち主の方も驚かれることが少なくありません。
修理職人は「動くか」より「状態」を見る
時計が動き出せば安心。
そう思われる方も多いでしょう。
しかし、
修理職人は少し違う視点で見ています。
私たちが確認するのは、
「動くかどうか」だけではありません。
例えば、
- 電池は正常か
- パッキンは傷んでいないか
- 湿気の影響はないか
- 消費電流は正常か
こうした点を確認しながら、
時計全体の健康状態を診断しています。
「たまに使う」が時計にはちょうど良いことも
もちろん、
無理に毎日使う必要はありません。
ですが、
長期間しまい込むより、
時々状態を確認することは大切です。
例えば、
保管しているクォーツ時計なら、
電池が切れていないかを定期的に確認するだけでも違います。
「最近動いているかな。」
その一言が、
時計を守るきっかけになることがあります。
放置すると修理が大きくなる理由
時計は小さな異常を放置すると、
後から修理内容が大きくなることがあります。
例えば、
液漏れを放置すると、
回路交換が必要になることがあります。
湿気を放置すると、
サビが広がることもあります。
つまり、
最初は小さな問題でも、
時間が経つほど時計への負担は大きくなる可能性があります。
だからこそ、
「使わないから大丈夫」
ではなく、
「使わない時計ほど状態を確認する」
という考え方が大切なのです。
時計が出している小さなサイン
時計は突然壊れるように見えて、
実は少しずつサインを出しています。
例えば、
- 電池寿命が短くなった
- ガラスが曇る
- 時間がズレる
- リューズの動きが変わる
こうした変化は、
時計からのメッセージかもしれません。
修理職人は、
その小さなサインを見逃さないよう診断しています。
都屋兄弟商会の考え方
都屋兄弟商会では、
時計修理を単なる電池交換とは考えていません。
私たちは、
時計をお預かりした際、
まず状態を確認します。
- 電池交換だけで良いのか
- 内部に異常はないか
- 今後修理が必要になる兆候はないか
そうした点まで確認し、
お客様へ分かりやすくご説明しています。
これは、
「時計を直す店」ではなく、
「時計を診断できる店」
でありたいと考えているからです。

まとめ
「使わなければ時計は傷まない。」
実は、これは半分正しく、半分間違っています。
確かに外側の傷は増えません。
しかし、
内部では、
- パッキンの経年劣化
- 電池液漏れ
- 湿気による影響
などが進むことがあります。
時計は使っていても、使っていなくても時間の影響を受ける精密機械です。
だからこそ、
大切なのは「使う・使わない」ではなく、
今どんな状態なのかを知ることです。
長く愛用したい時計があるなら、
たとえ出番が少なくても、ときどき状態を確認してあげてください。
その小さな心配りが、
10年後、20年後も大切な時計を使い続けるための第一歩になるのです。