時計の音は修理のヒントになる?
「この時計、前より音が大きくなった気がする。」
時計は動いている。時間も大きく狂っていない。
それでも耳を近づけると、
「カチカチ……」
「シャー……」
「カラカラ……」
以前とは少し違う音がする。
こんなとき、「動いているから大丈夫」と考えてよいのでしょうか?
時計修理の立場では、音も時計の状態を知る手がかりの一つです。
ただし、音がする=故障ではありません。
重要なのは、
「どんな音がするか」より、「以前と音が変わったか」
という点です。
今回は、時計屋が音から何を考えているのか、時計内部の仕組みと一緒に解説します。
そもそも時計は音がして当然?
腕時計の中では、小さな部品が常に動いています。
クォーツ時計では、電池から送られた電気によってステップモーターが作動し、歯車を動かして針を進めます。
そのため、静かな場所で耳を近づけると、
「カチッ、カチッ」
という音が聞こえることがあります。
機械式時計では、ゼンマイの力を使って歯車を動かし、脱進機やテンプが一定のリズムで動き続けています。
機械式時計特有の細かな音が聞こえるのは、そのためです。
つまり、
時計から音が聞こえること自体は異常ではありません。
自動巻き時計の「シャー」という音は?
自動巻き時計を動かしたとき、
「シャー」
「クルクル」
というような音がすることがあります。
自動巻き時計の内部には「ローター」と呼ばれる回転する部品があります。
腕の動きに合わせてローターが回り、その力を利用してゼンマイを巻き上げます。
そのため時計を振ったり腕を動かしたりしたときに、ローターの回転音が聞こえることがあります。
これも構造上発生する音なので、音がするだけで故障とは判断できません。
では、修理のプロは何を見るのでしょうか?
それは、
「昔からこの音だったのか」
「最近急に大きくなったのか」
という変化です。
「前より大きくなった」は重要な情報
例えば、何年も使ってきた時計から突然、
「カラカラ」
という音が目立つようになった。
時計を動かすと、以前にはなかった振動を感じる。
こんな場合は、単なる正常な作動音とは別の可能性も考えます。
時計内部には、
歯車、ネジ、ローター、針など、非常に多くの部品があります。
強い衝撃を受けたり、部品に緩みや摩耗などが起きたりすると、動いたときの音が変化することがあります。
ただし、音だけで「この部品が壊れている」と断定することはできません。
音はあくまで、内部を確認するきっかけなのです。
「カラカラ音」がしたら何が考えられる?
時計を軽く動かしたとき、今まで聞こえなかった「カラカラ」という音がする。
このような場合、まず考えるのは、
内部で何かが通常とは違う動きをしていないか
ということです。
自動巻きならローターの正常な回転音の場合もあります。
一方で、内部部品の緩みなどによって音が出ている可能性もあります。
ここで、
「音がするから壊れた」
とも、
「自動巻きだから大丈夫」
とも決めつけないことが大切です。
時計修理では、音だけでなく、
動作、精度、巻き上げ状態、外観、衝撃の有無などを合わせて判断します。
「こするような音」は注意したい
時計を動かしたとき、
「シャリシャリ」
「ゴリゴリ」
と、以前にはなかったこすれるような音が聞こえる場合もあります。
時計内部は、非常に小さな隙間を保ちながら部品が動いています。
正常な状態では接触しない部分が、何らかの理由で触れていれば、異音につながる可能性があります。
例えば衝撃による部品の位置変化や、内部部品の状態変化などです。
この場合も無理に振ったり、何度も動かしたりして確認するのはおすすめできません。
原因が分からない異音は、動かし続けることで摩耗や傷を増やす可能性があるからです。
音が大きい=オーバーホールではない
ここも大切です。
「音が変わったから、すぐオーバーホール」
というわけではありません。
時計によって、もともとの音の大きさは違います。
ケースの材質や構造によっても、内部の音の聞こえ方は変わります。
そのため正しい判断は、
その時計本来の音なのか、以前と比べて変化した音なのかを確認すること。
そして必要に応じて内部状態を確認することです。
都屋兄弟商会では、時計の部品交換・修理やオーバーホールを承っています。オーバーホールでは分解掃除と動作点検を行い、時計内部の潤滑油の変質や歯車の摩耗なども考えながら状態を確認しています。都屋兄弟商会(旧ミヤコヤ)
「いつから鳴り始めたか」を教えてください
時計店へ相談するとき、ぜひ伝えていただきたいのが、
「昨日落としてから鳴るようになった」
「最近少しずつ大きくなった」
「腕を動かしたときだけ鳴る」
「机に置いているときは鳴らない」
といった情報です。
これは修理する側にとって、とても重要な手がかりです。
都屋兄弟商会では、時計が動かない場合も電池切れだけと決めつけず、国家資格「時計修理技能士1級」を持つスタッフが時計の状態を確認しています。都屋兄弟商会(旧ミヤコヤ)
時計修理では、
「今、動いているか」だけではなく、「以前と何が変わったか」
を見ることが大切なのです。

まとめ|時計は「音」でも状態を知らせている
時計を見るとき、私たちはつい文字盤と針だけに注目します。
しかし時計は、
動き方。
時間のズレ。
振動。
そして音。
さまざまな方法で状態の変化を知らせています。
普通の「カチカチ」やローターの回転音なら、時計が正常に動いている証拠の場合もあります。
一方、
「急に音が大きくなった」
「今までなかった音がする」
「衝撃を受けてから音が変わった」
という場合は、一度状態を確認する価値があります。
時計修理のプロが聞いているのは、単なる「音」ではありません。
その音が、昨日までの時計と何が違うのか。
小さな音の変化から、時計の中で起きていることを考える。
それも、時計を診断するための大切な視点なのです。